不況の煽りを受け、就職活動中の女子大生にとって内定を勝ち取るのは決して容易なことではない。たとえ内定をもらえたとしても、取り消されるリスクすらある不安定な時代である。そんな中、リクルートスーツに身を包み、日々就職活動に励む女子大生たちは、どのような思いで日々を過ごしているのだろうか。
将来への不安、面接での失敗、精神的・肉体的な疲労が積み重なり、思うようにいかない現実に打ちのめされる。悩めば悩むほど気持ちは沈み、ストレスは蓄積していく。なんとか自制心を保てればいいが、心が折れ、うつ状態に陥ってしまう女子大生も少なくないはずだ。
絵里子も、そんな就職活動の只中にいた。ある日、第一志望の企業の面接を終え、気落ちしたまま、目的もなく昼間の公園をさまよっていた。今日の面接でうまく答えられなかったことが、心の中に重くのしかかっている。このどうしようもない気持ちを、何かで晴らさなければ、自分がおかしくなってしまいそうだった。
公園のグラウンドを歩いていると、突然めまいがして、その場にしゃがみ込む。黒いリクルートスーツのスカートのお尻部分が、土埃で白く汚れてしまったことに彼女は気づいていない。積もり積もったストレスと、将来への不安が彼女を限界まで追い詰めていた。そのとき、不思議な衝動が彼女を襲う。
「リクルートスーツを着たまま、思いきり汚れてみたい……」
気がつけば、スーツ姿のままグラウンドの真ん中に寝転んでいた。仰向けになって空を見上げると、まぶしい太陽の光が目に差し込む。次にうつ伏せになると、ジャケットの背中に砂埃がついているのが目に入る。スーツの背面もきっと真っ白になっているのだろう・・・そう思うと、なぜか胸の奥がざわつき、心が浮き立つ。
彼女はそのまま匍匐前進を始めた。全身が土埃にまみれて、スーツはもう元の姿ではない。だが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。むしろ、少しずつ心が軽くなっていくのを感じていた。・・・だが、このままでは帰れない。汚れを落とさなくては。
絵里子は、公園のすぐ近くにある海岸へと向かう。汚れたスーツを綺麗にしようと、そのまま海に足を踏み入れた。夏にはまだ早い時期で、海水はそれほど温かくはない。それでも、腰のあたりまで水に浸かり、ジャケットの胸元やお腹部分、スカートに付着した汚れを丁寧に洗い落としていく。公園の土で汚れたオーダーメイドのリクルートスーツは、今や荒波にもまれて全身びしょ濡れになっている。本来なら、私服以上に大切に扱うべきもの。
「(濡らすなんて・・・ましてや汚すなんてありえない。だからこそ・・・快感・・・)」
絵里子はそう思い、思わず小さく笑った。スーツ姿のまま、海水に抱かれる感覚。理性の枠を越えて心が解放される感覚。この感覚に、病みつきになってしまいそうだった。水と戯れているうちに、絵里子の中には不思議なほどの活力と喜びが湧いてきていた。これほど気持ちが晴れるとは思わなかった。ストレスが海に流されていくようだった。
「また、来よう。今度は内定を取ってから――自分へのご褒美として」
そう心に決めて、絵里子は浜辺に立ち尽くしながら濡れたリクルートスーツが肌に貼りつく感覚を心地よく感じていた・・・。